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9/15更新 「精神保健医療福祉の今後の施策推進に関する検討会」への意見
福祉新聞が2025年9月15日付で、[精神科の入院、強度行動障害は対象外 厚労省「訪問看護で対応]との報道を行いました。
当会では、国連障害者権利委員会が公表した日本への総括所見の内容が今後の精神科医療制度に反映されることを期待し、推移を注視してきましたが、残念な方向性へ進んでいることを危惧しています。そこで当会では、ここに9月15日現在の検討会の総括とそれに対する意見を表明します。
私たちは障害者権利の根幹である「当事者の自己決定」という原則と、総括所見の「医療モデルから人権モデルへ」という勧告が精神医療制度に反映されることを強く望んでいます。
会議の議論の中身
1. 政府側の基本的立場
厚生労働省は一貫して「入院医療中心から地域包括ケアへ」という方向性を打ち出しました。
- 精神科病床は急性期・包括期を中心とし、慢性期(治療抵抗性や強度行動障害など)は将来的に入院対象から外し、地域や施設で支える。
- 精神科診療所に「かかりつけ精神科医機能」を担わせ、拠点型外来と通常外来を役割分担させる。
- 「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム(通称“にも包括”)」を推進し、市町村の相談支援体制を強化する。
- 行動制限については「不適切拘束ゼロ」「要件の明確化」を掲げたが、拘束そのものの廃止には踏み込まず。
- ICTやオンライン診療の活用、身体合併症に対応できる医療体制の整備も強調された。
表現上は「権利擁護」「地域移行」を前面に出しながらも、実質的には医療モデルを維持・再編する方向が中心。
2. 政府方針を支持した意見
- 医療団体:日本精神科病院協会や看護協会は、「拘束はやむを得ない措置」として法的根拠を維持する立場を示し、機能分担や救急体制強化には賛意を示しました。
- 自治体:小千谷市や川口市などは「初診待機の長期化」「資源不足」など切実な課題に直面しており、外来・訪問・ICTの拡充を歓迎しました。
- 家族会の一部:急性期や自傷・他害リスクの場面では入院や拘束が必要だとする現実的な評価がありました。
3. 反対・批判的な意見
- 当事者団体(全国「精神病」者集団):非自発的入院や身体拘束は国連障害者権利条約(CRPD)第14条に違反しており、廃止すべきと強く主張しました。
- 当事者・ピアサポーター:隔離や拘束は「罰」として体験され、希望を奪う。人間的な温かい関わりこそが回復につながると証言しました。
- 研究者:日本の拘束率は国際的に突出して高く、「適正化」ではなく「廃止」を目指すべきだと指摘しました。
- 家族の一部:拘束に説明がなく、不信感とトラウマを残すという声も多く聞かれました。
4. 意見の集約のされ方
検討会では、当事者や研究者の「人権モデル」的な意見が紹介されつつも、最終的な方向性は厚労省の「適正化・地域包括ケア・機能分担」へと収束しました。
- 強制入院・拘束の廃止要求は制度案には反映されず。
- 医療提供体制の分担、数値目標、ICT活用といった実務的・制度的枠組みが合意事項となりました。
つまり、「廃止」ではなく「継続の正当化」へとまとめられたと言えます。
5. 国連障害者権利委員会の総括所見との関係
2022年の国連総括所見は、日本に対し以下を勧告しました:
- 強制入院・身体拘束・隔離の廃止
- 無期限入院の終結
- 独立した監視機関の設置
- 精神医療と一般医療の統合
これに対し検討会の議論は、
- 「不適切拘束ゼロ」や「地域包括ケア」など、表現上は前進を装いつつ、
- 実際には強制入院や拘束の制度を存続させ、精神科病床の機能再編にとどまりました。
結果として、CRPDの人権モデルからは大きく乖離し、形式的な前進に見せかけた逆行が鮮明になったと評価できます。
6.総括的な見解
この検討会は、国際的な人権基準に応える「改革の場」として位置づけられましたが、実際には次のような特徴を持ちました:
- 政府・官僚は「地域包括ケア」「拘束ゼロ」といった言葉で改善を演出。
- 医療団体や一部自治体は「現実的課題解決」としてこれを支持。
- 当事者・研究者は「人権侵害の根本的解消」を求めたが、制度案には反映されず。
結論として、制度は「現状維持と医療モデル強化」に収斂し、国連の求める人権モデルへの転換は見送られたと言えます。
形式的前進と実質的逆行
この検討会の結論は、「形式的前進と実質的逆行」 という一言に尽きます。
政府は「地域包括ケア」「拘束ゼロ」「入院から地域へ」といった前進的なスローガンを掲げました。
しかし実態は、強制入院や拘束の仕組みを温存しつつ、精神科病床の再編や外来・ICT強化といった 医療モデルの再構築 にとどまりました。
つまり、表向きは国連障害者権利条約(CRPD)の総括所見に応えているように見せながら、実際にはその本旨──強制入院・拘束の廃止、人権モデルへの転換──から大きく乖離しています。
当事者や研究者が訴えた「人権の実現」は最終的に制度案に反映されず、議論は「適正化」「数値目標」「機能分担」といった現行制度の延長線上に収束しました。
1. 形式的前進に見える点
政府・厚労省が強調した施策は、言葉の上では「改善」「前進」と受け止められる要素を含んでいました。
- 「地域包括ケア」の推進
- 入院中心から地域生活中心へと移行すると説明。
- 「不適切拘束ゼロ」宣言
- 行動制限を減らし、要件を明確化すると打ち出した。
- 「地域移行支援」の強調
- 入院初期から地域移行を視野に入れ、数値目標を設定。
- 「かかりつけ精神科医機能」の整備
- 外来診療や訪問診療を充実させる新たな枠組み。
- ICT・オンライン診療の活用
- 初診待機や地域格差への対応として導入。
これらは、国連障害者権利条約(CRPD)が求める「地域生活中心」という方向と、表面上は一致しているように見えます。
2. 実質的逆行となる点
しかし、議論の中身と制度設計の方向性を精査すると、次のような逆行が浮かび上がります。
- 強制入院・身体拘束の存続
- 「不適切拘束ゼロ」と言いながら、拘束の法的根拠を維持し続け、廃止には踏み込まなかった。
- 地域資源の不足を放置
- 強度行動障害や長期入院者を「地域で支える」としたが、地域の受け皿は整備されておらず、結果的に病院依存を温存。
- 医療モデルの再強化
- 地域包括ケアと称しながら、精神科病床の機能分化・外来強化・ICT化など、医療モデルの拡張に終始。
- 当事者・家族の声の軽視
- 「隔離・拘束は廃止すべき」という当事者・研究者の意見は紹介されても、制度設計には反映されず。 国連勧告との乖離 CRPDが求めるのは「強制入院・拘束の廃止」「人権モデルへの転換」だが、日本の対応は「適正化」と称した現状維持。
3.まとめ
この検討会の結論は、まさに 「形式的前進と実質的逆行」 に集約されます。
- 形式的前進:スローガンや制度名目では地域移行や人権尊重を装う。
- 実質的逆行:実態としては医療モデルを温存・再強化し、国連総括所見から乖離する。
この二層構造こそ、日本の官僚制が用いる典型的な「自己正当化の技術」であり、今後も批判的に検証され続けるべき点だと言えます。
障害者権利条約との関係
障害者権利条約(CRPD)の根幹にあるのは、まさに 「自己決定(私のことは私が決める)」 という原則です。
- 第12条(法律の前にひとしく認められる能力) すべての障害者は他の人と平等に、法的に意思を持ち、それを行使できる主体であると認めること。 → つまり「家族や専門職が代わりに決める」のではなく、本人の意思がまず尊重されるべき。
- 第14条(身体の自由と安全) 障害を理由に自由を奪われてはならない。 → 強制入院や拘束は、本人の意思を無視して「他者が決める」構造そのもの。
- 第19条(自立した生活及び地域社会への包容) 自分の生活のあり方、住む場所、誰と暮らすかを自ら選ぶ権利。
つまりCRPDは、「私のことは私が決める」というシンプルな人間としての権利を、法的に国際社会が明言したものだと言えます。
日本的パターナリズムとの関係
全9回を通してみると、検討会の「中間報告的な結論」にも、はっきりと パターナリズム(本人に代わって“善意で決める”態度) が表れています。いくつか代表的な箇所をご紹介します。
1. 医療保護入院に関する結論
- 家族同意制度を存続させつつ「本人の意思確認を努力義務化」「同意能力に疑義がある場合の手続整備」などを議論。
- 表現上は「改善」ですが、根本的に 家族や専門職が本人に代わって入院を決める枠組みを残す方向。
- これは「本人のことは本人が決める」原則からの逸脱であり、典型的なパターナリズム。
2. 行動制限(隔離・身体拘束)の「適正化」方針
- 「不適切拘束ゼロ」を掲げつつも、「やむを得ない場合には継続」との前提を温存。
- 当事者は「拘束そのものが尊厳の侵害」と証言しましたが、最終的には「適正化」「基準明確化」にとどまりました。
- ここにも 「制度側が安全のために決める」という発想が強く出ています。
3. 強度行動障害の位置づけ
- 「慢性期や強度行動障害の人は将来的に入院対象外とし、地域や施設で支える」と結論。
- 一見「地域で」という前進ですが、実際は 本人の意思ではなく“社会の管理しやすさ”で振り分けるという枠組み。
- 「本人にどんな支援が必要か」ではなく、「入院から外す」という制度側の都合で決められている。
4. かかりつけ精神科医機能
- 診療所に「地域包括ケアの拠点」として多機能を担わせる方向。
- しかしこれは 本人が選んだ支援というより、制度設計上“精神科医が管理する網”を張るという発想。
- 「本人主体」ではなく「専門職が地域を包括的に見守る」という paternalistic な枠組み。
5. 意見集約の仕方
- 当事者・家族・研究者の「廃止」「人権モデル」要求は紹介されたが、最終的には「適正化」「数値管理」「地域包括ケア」という制度的言葉で包摂されました。
- 「声を聞いたように見せながら、制度側に都合のよい形にまとめ直す」パターナリズム の典型例。
- 項目3
6.まとめ
中間報告的な結論には、繰り返し次の構造が見えます。
- 「本人の意思を尊重する」と言いながら、実際は制度・専門職・家族が判断主体。
- 当事者の声を「参考意見」として扱い、最終的には制度の安全・効率を優先。
- 国連総括所見の「本人による自己決定」を正面から受け止めていない。
つまり、この検討会の結論は表向きは「前進」を装いながらも、パターナリズムの影響を色濃く残す妥協の産物だと整理できます。
検討会資料や議論に出てきた「パターナリズムが現れた具体的な表現」
1. 医療保護入院に関する議論から
- 「本人の同意を得られない場合は、家族等の同意により入院を可能とする」 (第2回 議事録・資料)
- 問題点:本人が拒否しても家族の同意で入院が決まる。
- パターナリズム性:本人の意思よりも「家族が良かれと思って決める」ことが優先されている。
2. 行動制限に関する結論から 「
- 行動制限は本人の権利を侵害する重大な措置であるが、やむを得ない場合には適正に行う必要がある」 (第4回 資料)
- 問題点:「やむを得ない場合」を広く認める姿勢。
- パターナリズム性:本人がどんなに拒否しても、「安全のため」という大義名分で制度や医師が決定する構造。
3. 強度行動障害に関する結論から
- 「強度行動障害の人など慢性期患者は、将来的には入院対象外とし、地域や施設で対応力を高めていく」 (第9回 資料)
- 問題点:本人の意思や希望ではなく「制度上の分類」で処遇を決めている。
- パターナリズム性:「本人にとって何が良いか」ではなく「社会にとって扱いやすいか」を基準にしている。
4. かかりつけ精神科医機能に関する整理から
- 「地域全体で面として支えるために、精神科診療所に包括的な機能を持たせる」 (第6回・第7回 資料)
- 問題点:本人が「どこで、誰に、どう支援を受けたいか」を選ぶ自由が言及されていない。
- パターナリズム性:「地域の網をかけて専門職が見守る」構造に傾いている。
5. 意見集約のまとめ方から
- 「当事者からは廃止を求める声もあったが、現実的には適正化を進めるべきである」 (第4回 議事録)
- 問題点:廃止という強い人権要求を「非現実的」として切り捨て。
- パターナリズム性:「現実を知る専門家・行政が正しい判断を下す」という枠組みが温存されている。
総括
こうした表現の繰り返しから見えてくるのは、検討会の結論が 「本人主体」ではなく「制度・専門家・家族主体」 「権利」ではなく「安全や効率」 を優先する方向でまとめられていることです。 つまり「本人のことは本人が決める」というCRPDの根幹原則から外れ、パターナリズムの影響を制度の骨格にまで埋め込んでいるのが、この検討会の最大の特徴だと言えます。
本検討会について
検討会WEBサイト
会議資料